暫定版 「使える」蜂類標本作成法

ハチ類の標本を作る際に展翅、展足してしまっている人が多いが、そのような作成法だと重要な分類形質が隠れてしまい、正確な同定が出来なくなっている場合が多い。つまり、研究や調査には不向きである。また、横からの写真撮影ができない。場所を不必要に取るなど良いことはない。見栄えはいいのかもしれないが、慣れてしまえば全てが完璧に整っている標本よりも、いくつかの要所のみを押さえたのみで、ある程度の雑然さを残した標本が整然と並んでいる様に美しさを感じるようになる。少なくとも僕はそうだった。それでもこれがどうしてもできない人は、採った虫を標本箱に並べて満足するだけの人で、得られた標本を何らかの調査、研究に役立てようとはしたがらない人である。極論すればこのような人は虫採りをするべきではないと思う。でなければ犠牲になった虫たちの命が浮かばれない。蝶や大型甲虫に対してハチ・ハエ類はこれからも新知見が多く発見される分野である。

分類群によって気をつけるべき点は異なってくるが、要点としては、

1, 乾燥させる際は展翅板、タトウを使わない。
2, 翅はなるべく立てる、もしくは互い違いに開くようにする(頭部正面から見てX字型になるように)。これが出来ていなくとも、胸部横の構造が見え、前後翅の翅脈が見えるようになっていれば問題ない。
3, 脚は胸部横構造の観察の邪魔にならない程度に下ろす。しかし特に大型の種類では下ろし過ぎるとラベルをつけるときに邪魔になるので適宜胴体の下に丸めて収めるなどして調整する。
4, 大顎は開く。ハナバチは口吻を引き出しておくとよい。
5, 胸部の正中線を避けて針を刺した標本は2-4の事項に気をつけた整形の後、発泡スチロール板やぺフ板に刺して乾燥させる。右利きの人は右寄りに、左利きの人は左寄りに針を刺すと扱いやすい標本ができるが、一般的には右に刺すことが多い。
6, 小型のものは微針に刺すか、台紙に貼るが、特に小型の有剣類は微針に刺した方がより立体的に整形できる。直接針を刺すか微針、台紙にするかの基準はシガの有頭1号針が刺せるかどうかが目安となる。0号以下はコシが弱く、摘まみにくいので使ってはならない。台紙や微針を刺したぺフ板を固定する針は有頭3号針が適している。小型のヒメバチや寄生蜂は台紙に貼る場合が多い。
7, 乾燥させる際に腹部が垂れ下がる場合は標本のを留めた板を立てかけたり、X字型にした針を使って腹部を持ち上げるとよい。

が挙げられる。

これ対し、大型ハエ類の標本は専門の研究者であっても展足、展翅をしている場合が少なくないが、上記にならった方法だと標本制作にかける時間を大幅に節約できる。

参考までに先日載せたクマモトツチスガリの標本写真を再掲する。ちなみに針はシガの1号針を使用している。

最近は僕を含めハチ類に興味を持つ人が多くなってきたようである。しかし、きちんとした標本の作製法はまだまだ浸透していないように感じる。いずれここに書ききれてないこと、改良点、採集法、同定法などを含めて多くの虫屋の目に触れる場所で発表したい。また、上にあげた方法は僕なりに試行錯誤してみた結果出来たものです。不備な点やよりよい方法がありましたら、是非ご教示いただければと思います。